― 人的資本時代における「戦略人事」の本質 ―
企業の成長は何によって決まるのでしょうか。
商品力、営業力、マーケティング力、資金力、ブランド力。
確かにどれも重要です。しかし、それらすべてを生み出している源泉は「人」です。
そして、その「人」を採用し、育成し、配置し、評価し、活かす役割を担うのが人事です。
かつて人事は「管理部門」と位置付けられてきました。しかし今、時代は大きく変わりました。
人的資本経営の広がり、AIの進化、働き方の多様化、少子高齢化による人材不足――。
こうした環境下で、人事は単なるオペレーション部門ではなく、企業の未来を設計する戦略部門へと進化することが求められています。
本コラムでは、なぜ人事が企業成長のカギとなるのかを、経営視点で体系的に整理します。
1. 人事は「管理」から「戦略」へ
従来の人事業務は、主に以下のような内容でした。
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採用業務
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勤怠管理
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給与計算
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社会保険手続き
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労務トラブル対応
もちろんこれらは企業運営に不可欠です。しかし、これらはあくまで「守り」の機能です。
これからの人事に求められるのは、経営戦略を実現するための攻めの人事です。
たとえば、
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3年で売上を倍増させる
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DXを推進する
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新規事業を立ち上げる
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海外展開を行う
これらを実現するには、どのような人材が、いつまでに、どの部署に、何人必要なのかを設計しなければなりません。
つまり、
経営戦略 = 人材戦略があって初めて成立する
のです。
人事が経営会議に参加していない企業は、実は戦略の半分を欠いた状態で意思決定をしていると言っても過言ではありません。
2. 成長企業が実践する「戦略人事」の3つの柱
① 採用を未来への投資と捉える
多くの企業が採用コストの削減に注力します。しかし、成長企業は採用を「費用」ではなく「投資」と考えます。
重要なのは採用単価ではなく、**入社後の生涯価値(LTV)**です。
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どれだけ早く戦力化できるか
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どれだけ組織文化にフィットするか
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将来の幹部候補になり得るか
短期的なスキルだけでなく、ポテンシャルや価値観を重視する姿勢が、持続的成長につながります。
② 評価制度を戦略と連動させる
評価制度は「会社が何を大切にしているか」を明確に示す装置です。
もし企業が「挑戦」を掲げながら、失敗を減点する評価制度であれば、社員は挑戦しなくなります。
戦略と評価が一致している企業では、
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イノベーションを目指すなら挑戦を評価
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チーム経営を目指すなら協働を評価
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生産性向上を目指すなら成果を明確に定量化
といったように、方向性が明確です。
評価制度は、単なる査定の仕組みではなく、組織文化を形成するエンジンなのです。
③ 組織開発に継続的に投資する
個人の能力が高くても、組織が機能しなければ成果は最大化されません。
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上司と部下の信頼関係
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部門間の連携
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心理的安全性
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迅速な意思決定
これらは自然には生まれません。意図的に設計し、育てる必要があります。
組織開発は時間がかかる取り組みですが、長期的には企業競争力の源泉になります。
3. AI時代における人事の進化
近年、AIは人事領域にも大きな変化をもたらしています。
たとえば、OpenAI が開発した生成AI技術は、
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求人票の作成
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面接質問の自動生成
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評価コメントの分析
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社員データの可視化
などを高度化させています。
また、World Economic Forum は、今後数年で多くの職種が再定義されると報告しています。
これは何を意味するのでしょうか。
それは、
「採る力」よりも「育て直す力」が重要になる
ということです。
リスキリング、スキルの見える化、キャリア自律支援。
これらを戦略的に設計できる企業だけが、AI時代に勝ち続けます。
4. 人的資本経営と企業価値の関係
近年、日本でも人的資本経営への関心が急速に高まっています。
経済産業省 が公表した「人材版伊藤レポート」では、企業価値向上の源泉として人的投資の重要性が明示されています。
投資家は今、財務情報だけでなく、
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エンゲージメントスコア
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女性管理職比率
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研修投資額
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離職率
などを見ています。
つまり、人事の取り組みは企業の株価やブランド価値にも直結しているのです。
5. 中小企業にこそ求められる人事改革
中小企業では、一人ひとりの影響力が非常に大きいという特徴があります。
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優秀な営業一人で売上が倍増する
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管理体制の不備で労務トラブルが発生する
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採用ミス一件で組織が不安定になる
だからこそ、
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採用基準の明確化
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早期育成プログラム
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公平な評価制度
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労務リスクの可視化
が不可欠です。
特に、人事情報の分断は成長のボトルネックになります。
勤怠、給与、評価、スキル、配置情報がバラバラでは、戦略的な人材活用は不可能です。
人事データを統合し、可視化し、経営判断に活かすこと。
これが戦略人事の第一歩です。
6. 経営者が今すぐ考えるべき3つの問い
最後に、経営者の皆様に問いを投げかけます。
① 3年後に必要な人材像を明確に描けていますか?
② 評価制度は経営戦略と一致していますか?
③ 人事データを意思決定に活用できていますか?
これらに明確に答えられない場合、人事はまだ「未来設計部門」になっていないかもしれません。
まとめ:人事は未来を創る部門
企業の未来は、人によって決まります。
そして人の未来は、人事によって設計されます。
人事とは、
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人を管理する部門ではなく
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人を活かし、未来を創る部門
です。
人的資本時代において、
人事は企業成長の“カギ”ではなく、“エンジン”と言えるでしょう。
貴社の人事は、今、戦略部門になっていますか。
成長を本気で目指すなら、まず見直すべきは「人事の位置づけ」かもしれません。
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